Explore Ocean(Newport Beachの海洋博物館)その6      ソブリン・オブ・ザ・シーズ(Sovereign of the Seas) 1852

Sovereign of the Seas 2

ソブリン・オブ・ザ・シーズ(Sovereign of the Seas)の名前は、帆船模型の世界では、1637年にチャールズ1世の命により建造された同名の3層艦の方が有名でしょうが、この美しいクリッパー型全装帆船は、ドナルド・マッケィ(Donald McKay)のEast Bostonの造船所で1852年に建造されました。

ドナルド・マッケィは1810年にノバスコシアで生まれています。無論、当時はノバスコシアは重要な北米軍事拠点のハリファックスを有する英国領ですね。

Sovereign of the Seas 4

マッケィは1826年に移民としてニューヨークに移り、その後ニューベリーポートを経て、1845年にボストンで造船所を開設しました。そして、1850年に進水したStag Houndを皮切りに1869年まで、数々の素晴らしい木造クリッパー帆船を建造していきます。特に1850年〜1855年に掛けて建造されたエクストリーム・クリッパー(Extreme Clipper)と呼ばれる帆走スピードを最優先した構造の美しい船は、帆船の頂点を極めたと云っても過言ではないでしょう。

さて、ソブリン・オブ・ザ・シーズは、海の帝王の名に恥じぬ大変な快速帆船でした。この船は、以前の記事で触れたように、22ノットというクリッパーシップ最速の記録を現在に至るまで保持しています。唯一現存する1869年の建造されたクリッパー帆船カティ・サーク(Cutty Sark)の最速帆走記録が17.5ノットですので、その凄さを改めて感じます。

Sovreign of the Seas 3

因みのドナルド・マッケィが建造したクリッパーシップで、素晴らしい記録をつくった特に有名な帆船は次の3艘です。

(1)フライング・クラウド(1851年建造):ニューヨーク・サンフランシスコ間の89日の帆走記録。この記録は、1989年に破られるまで、なんと135年間も保持されたのでした。無論、記録を破ったのはレーシングヨットですので、3本マストの全装帆船としての記録は永遠に残ると思います。

(2)ソブリン・オブ・ザ・シーズ(1852年建造):上記したように全装帆船として22ノットの最速帆走記録。

(3)チャンピオン・オブ・ザ・シーズ(1854年建造):24時間の帆走距離 。この記録も1984年まで、130年間も破られなかったのでした。

Sovereign of the Seas photo

現存しているソブリン・オブ・ザ・シーズの写真は上の通りですが、天に向かって聳えるムーンスル(Moon Sail)ヤードを備えたマストがただならぬ雰囲気を醸し出しています。

Sovereign of the Seas 1

クリッパー帆船というと、一般的にロンドンに一番茶を運んだティー・クリッパーが思い当たると思いますが、ティー・クリッパー・レースが尤も盛り上がった1860年代は、アメリカは南北戦争に突入しており、米国でのクリッパー帆船の全盛期は終焉を迎えていたのでした。カティ・サークが建造されたのは1869年ですので、俗にヤンキー・クリッパーとして呼ばれるアメリカ産のクリッパー・シップとは活躍した時代が異なります。因みに木鉄混合帆船であるカティサークは963トン、全長280ft (約85.4m)、船体幅36 ft(約11m)です。ソブリン・オブ・ザ・シーズは木造なので2,421トン、全長265 ft (約80.8m)で、船体幅45.6 ft (約13.9m)です。

Cutty Sark 1992

上の写真は、1992年にロンドン郊外のグリニッジを訪れた時に撮影した、カティ・サーク(Cutty Sark)の船尾を撮影したものです(因みに当時の主機ニコンF3、20mmの単焦点レンズで撮影したネガをスキャンしてみました)。学生時代に何度もカティ・サークと王立海洋博物館を見学し心の糧にしていたのですが、最近20年ほど遠ざかっていますので機会があれば復活したカティ・サークを再訪したいと思います。

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Explore Ocean(Newport Beachの海洋博物館)その4      USSハンコック 1776

USS HANCOCK 1

次はUSSハンコック(USS Hancock)です。なんとこの帆船模型の縮尺は、1/96なのでした。製作中の(といっても、2009年頃から建造が中断している)フランス海軍の34門フリゲート艦La Gloireは1/90の縮尺なので再現が難しいと嘯くのが恥ずかしくなります。Boxwood(黄楊)に彫刻されたフィギュアヘッドは、ほんの指先程の大きさですが、これだけでも芸術作品のようです。

USS HANCOCK 2

さて、USSハンコックは、アメリカ独立の年、1776年にニューベリーポート(Newburyport)で建造された、32門搭載のフリゲート艦です。ニューベリーポートは独立戦争当時、アメリカの造船業界をリードしていたそうです。のんびりとした今の街の姿からは想像もできませんが。

USS HANCOCK 5

Howard Chapelleの名著中の名著である
History Of American Sailing Shに、USS Hancockについて、図面も添えられ詳しく解説されていますが、印象的なのは「The fastest frigate in the world(世界最速のフリゲート艦)」という文です。事実、USSハンコックは、就役後間もない1777年、英国海軍の44門フリゲート艦HMSレインボーに36時間にも亘り追跡され、降伏・拿捕されてしまうのですが、その後もHMSアイリス(HMS Iris)と改名され活躍を続けるのでした。英国海軍での評価も「The finest and fastest frigate(最高、最速のフリゲート艦」というもので、多くの捕獲賞金を英国海軍の艦長にもたらしたFortune Ship(幸運な船)として記憶に残ったのでした。

USS HANCOCK 3

USSハンコックの大きさは、136.7ft(約41.6m)、763トンで、USSエセックスより少し小型ですが、模型の通りバランスが取れた美しいフリゲート艦です。就役時の搭載砲は、12ポンド長砲x24門、6ポンド砲x10門でした。

USS HANCOCK 4

アメリカの高速フリゲート艦の記事が続きましたので、次は伝統的な英国海軍の3層艦に目を向けます。

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Explore Ocean(Newport Beachの海洋博物館)その3      USSエセックス 1799(後編)

USS ESSEX 6

USSエセックスは32門搭載のフリゲート艦で、デッキ長が140ft(約42.7m)ですので、44門艦のスーパー・フリゲート艦USS CONSTITUTIONのデッキ長174ft(約53m)に比較すると小振りですが、とてもスマートな船体です。実際にUSS ESSEXは当時大変な快速艦でした。この模型を製作したのは、Mr.Robert J. Dowst(1924-1989)で、搭載砲と艤装を少し詳しく見ると建造当時の姿を再現したことが判ります。

American Light and Medium Frigates 1794-1836 (New Vanguard)の中で図解されているUSS ESSEXの姿は、12ポンド砲x28門、32ポンド・カロネード砲x18門の合計46門を搭載しており、1809年の改修後の姿だそうです。この改修の際に模型のような優雅なフォアキャッスルのレールはブルワーク(bulwarks)に取って代わっており、まるでUSS Constitutionを小型にしたような姿になりました。因みに、1812年にDavid Porter艦長が受け継いだ時には、32ポンド・カロネード砲x40門、12ポンド長砲x6門を搭載していたそうです。

USS ESSEX 3

上の写真は艦首部分ですが、縮尺通りのビレイピン、忠実に再現した縦木のグレーティング、キャットヘッドに組み込まれた米粒ほどの滑車等々、ため息が出るほど見事に作り込まれた模型です。クオーターデッキも不格好なカロネード砲がなく優雅な姿です。

USS ESSEX 5

海洋小説のファンであれば、USS ESSEXの名前から、
The Far Side of the World、翻訳版の邦題は
南太平洋、波瀾の追撃戦〈上〉―英国海軍の雄ジャック・オーブリー (ハヤカワ文庫NV)の物語の中で英国の捕鯨船を拿捕しまくるアメリカ海軍のフリゲート艦USS Norfolkを思い起こすかもしれません。無論、USS Norfolkも、マスター・アンド・コマンダーの映画の中でフランスの私掠船として描かれているAcheronも実在した帆船ではありません。史実として英米戦争(1812-1815年)中に、USSエセックスは英国の通商を破壊する為に「Far side of the world」に至る巡航を行い、1813年3月に英国の捕鯨船Elizabethと Nereydaを捕獲してチリのバルパライソに寄港した後の9ヶ月間でなんと13隻の英国の捕鯨船を捕獲しています。その内、捕鯨船アトランティック(Atlantic)を再艤装し、元々捕鯨船が搭載していた18ポンドカロネード砲x10門に加え、6ポンド砲を更に10門搭載し、USS Essex Juniorと命名(とても安易な名前ですが)等級外の20門搭載スループ艦として僚艦にしています。

さて、このUSSエセックスに対して、英国海軍のJames Hillyar艦長が指揮する36門搭載フリゲート艦HMSフィービー(HMS Phoebe)と20門搭載スループ艦HMSチェラブ(HMS Cherub)が南大西洋に派遣されました。ヒリヤー艦長への命令書には「如何なる犠牲を払っても(at any cost)USSエセックスを破壊せよ」と記載されていたそうです。

battle-of-valparaiso.png

1814年前半、USSエセックスとUSSエセックス・ジュニアは、6週間もの間HMSフィービーとHMSチュブラによりバルパライソ港に封じ込まれていました。運命の日は、1814年3月28日に訪れます。USSエセックスは、俊足を生かし海上封鎖を破る賭けにでました。ところが、帆を張り増したUSSエセックスを突風が襲い、なんとトップ・マストが吹き飛ばされてしまいました。HMSフィービーは18ポンド長砲の長い射程で、USSエセックスを狙い撃ちします。片や、USSエセックスの32ポンドのカロネード砲は射程が短くHMSフィービーに損害を与えることが出来ません。

USS ESSEX (Joseph Howard)

2時間を超える撃ち合いの後、USSエセックスは、戦死58名、負傷45名、行方不明31名の大損害を被り、星条旗を降ろしました。HMSフィービーとHMSチュブラの損害は、合計で戦死5名、負傷10名でした。USSエセックスのポーター艦長は、32ポンドのカロネード砲を18ポンドと12ポンドの長砲に換えてほしいとの陳情を何度も海軍長官(United States Secretary of the Navy)におこなっていた記録が残っていますので、この海戦の結果を多いに悔やんだことでしょう。

因みにHMSフィービー(Phoebe)は、1795年に建造されていますが、色々な場面に登場します。ジャック・オーブリー・シリーズの中で描かれている、モーリシャスのグランド・ポートの戦いでフランス海軍に降伏したクロンフォート卿(この人も架空の人物ですが)の乗艦HMS Néréide(ニアリード、32門フリゲート艦)も、1797年にHMSフィービーが拿捕した元フランス艦です。HMSフィービーについても、いつか記事にしたいと思います。

博物館に展示されている帆船模型からどんどん話しが膨らんでしまいました。それでは、次の模型に移ります。

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Explore Ocean(Newport Beachの海洋博物館)その2      USSエセックス 1799(前編)

USS ESSEX 2

この海洋博物館は幾つかの建物に別れていますが、帆船模型館(勝手に命名)で先ず目に入ったのは、1/48の縮尺の32門搭載のフリゲート艦USSエセックス(USS ESSEX)でした。惚れ惚れするほど美しい見事な帆船模型です。

USS ESSEXは、1799年にボストン近郊のエセックス州セーラム(Salem)で建造されました。このフリゲート艦は、当時の人口が僅か9,500人のセーラム市の人々を中心とした義援金により建造されたと聞くと、少し首を傾げてしまいますが、以前の記事に書いたように、当時のセーラムは貿易で財を成した豪商が華麗な自宅を競うようなアメリカの最大の貿易港でした。当時の情勢を振り返ると、アメリカは1798 年からフランスとのQuasi-War(擬似戦争)に突入しており、アメリカの商船は次々とフランスの餌食になっていたのです。海上保険料が信じられない料率に上がり、捕獲される商船の被害が膨大になるにつれ、貿易港で栄えた町の市民の義援金により、次のフリゲート艦が1799年〜1800年に掛けて建造されたのでした。

1. USS ESSEX(セーラム市)           32門フリゲート艦
2. USS NEW YORK(ニューヨーク市)       36門フリゲート艦 
3. USS PHILADELPHIA(フィラディルフィア市)  44門フリゲート艦
4. USS BOSTON(ボストン市)          32門フリゲート艦  
5. USS JOHN ADAMS(チャールズトン市)     28門フリゲート艦

USS ESSEX 1

さて、上記のフリゲート艦について、
Sailing Warships of the Us Navyに詳しく解説されていますが、USSエセックスは、32門艦の等級でしたが、就役時に12ポンド長砲 x 26門、6ポンド砲 x 10門の合計36門を搭載していました。一般的にアメリカ海軍は重装備ですね。USS Constitution は44門艦ですが、通常56門搭載していましたし。

USS ESSEX 4

さて、USSエセックスは、建造時の趣旨に従い、先ずはエドワード・プレブル(Edward Preble)艦長の指揮下でバタビア(現在のジャカルタ)を往復するアメリカ商船団の護衛の任務に就きます。

記事が長くなってきましたので、次の後編に続けます。

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Explore Ocean(Newport Beachの海洋博物館)その1

Balboa Signboard

2012年夏のアメリカ西海岸旅行で最初に訪れた海洋博物館は、Explor Ocean/Newport Harbor Nautical Museumです。WEBページを見て、少し子供向けな内容かな、と思っていましたが、とても満足できる展示内容でした。

滞在していた場所からこの博物館に行くには、コロナ・デル・マー(Corona Del Mar、「海の王冠」の名前に相応しい美しい街ですね)のOcean Boulevardを海を眺めながらゆっくり通り抜け、バルボア・アイランド(Balboa Island)から小さいフェリー(というか渡し船)に乗ります。

Ferry Admiral

船着き場の左手にある駐車場に車を止めると、直ぐ前が海洋博物館が入っている、Balboa Fun Zoneです。どこの海洋博物館も(例外はハリファックスの海洋博物館でしたが)、余り混んでいた記憶がありませんが、ここでも展示物を独り占めできました。

NB Nautical Museum

さて、この建物の中にはなにが展示されているでしょうか。

Explore Ocean 1

夏のビーチタウンの喧噪から見事に遮断された世界が広がっています。薄暗い室内に馴れるためにソファーに腰を下ろし、大型スクリーンに映されるヨットの映像を見た後に周囲を見渡すと、見事な帆船模型に囲まれていることに気がつきました。次の記事では、この博物館で撮影した何隻かの帆船模型について見ていきます。

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