サグレスⅢ(NRP Sagres Ⅲ、1937)

この船には特に思い入れがあります。
1983年10月23日、僕は大阪港の沖合いに船列を成して停泊したフェリーの船上にいました。そして遥か彼方の海上をまさに無声映画のように通過する10隻の帆船を、望遠レンズを装着したカメラのファインダー越しに、幾分苛立ちながら眺めていました。これが僕の(学生時代の)OSAKA WORLD SAIL '83の記憶です。マルチーズ・クロスが描かれた横帆をすべて展帆していたサグレスの姿は美しかったですが、あまりに遠すぎるし、光線の具合も悪く(たしか逆光でした)、もう一度、この船が帆走する姿を見てみたいと思っていました。
あれから26年。2009年7月、ノバスコシアのハリファックスで、とうとうサグレスと再会することができました。

サグレスⅢは、1937年にハンブルクのBlohm & Voss造船所でドイツ海軍の帆走練習船Albert Leo Sclageterとして進水しました。サイズは全長295ft(90m)、全幅40ft(12m)、1,755トンです。時期を前後して同じ造船所で次の4隻の姉妹船が建造されました。

(1) Albert Leo Schlageter 1937年 現ポルトガル海軍の帆走練習船サグレスⅢ
(2) Horst Wessel 1936年 現アメリカ沿岸警備隊の帆走練習船イーグル
(3) Mircia 1938年 現在もルーマニア海軍の現役帆走練習船
(4) Gorch Fock 1933年 1952年~2002年ロシアの練習船Tovarish
第二次世界大戦後、(1)Albert Leo Schlageterと(2)Horst Wesselの2隻は、アメリカの戦利品として接収され、(4)のGorch Fockはソ連に接収されました。この内、(1)Albert Leo Schlageterは、アメリカからブラジルに譲渡され、Guanabaraと改名され1962年までブラジル海軍の帆走練習船として活動。その後、サグレスⅡ(ex- Rickmer Rickmers)の引退に伴いポルトガル海軍がブラジルから譲渡され現在に至ります。2009年の帆船のイベントでは、ハリファックスの前の寄港地ボストンに、サグレスⅢ、イーグル、ミルチャの3隻が集まりました。残念ながらミルチャはハリファックスに寄航しませんでしたが、ドイツで建造された帆船は今でも数多く活躍していますね。

船首像はエンリケ航海王子をモチーフとしていますがユーモラスな感じです。サグレスは船上も見学することが出来ました。海軍の練習船らしく、お揃いの白い制服を着た士官候補生(?)が船上を案内してくれました。帆船パレードでも前部甲板と後部甲板に乗組員が整列していました(冒頭の写真ではちょっと見にくいかもしれませんが)。

サグレスは、サグレスⅡと紹介されていることがありますが、正しくはサグレスⅢ(3代目)です。1代目のサグレスは、1858年に英国で建造された木造のコルベット艦(英国風にいうとスループ艦)で、1884年~1898年の間、ポルト(Porto)付近に係留され練習船として使用されました。2代目のサグレスは、1896年にドイツBremerhavenのRickmers造船所で建造されたRickmer Rickmersで、1916年にアゾレス諸島に寄航中、ポルトガル政府に接収されました。その後、英国に貸し出された後に、サグレスⅡとして1924年よりポルトガル海軍の帆走練習船として使用されました。1958年の帆船レースで活躍しています。因みにRickmer Rickmersは現在、ハンブルク港に係留され博物館になっています。
下の写真は2002年8月にハンブルクを訪れた際に撮影したものです。


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